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2017年

(5)「閣議決定」と特別報告者による「特定秘密法の改正勧告」

リットン調査団ケイ

「リットン調査団」(出典は「ウィキペディア」)と特別報告者デビット・ケイ氏(出典は「共同通信」)

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5月28日の記事で私は「国連の特別報告者デビット・ケイ氏やケナタッチ氏の指摘や報告の内容は、安倍政権の強圧的な対応によっていっそう説得力のあるものとなり、ベルリン・オリンピックの悲劇を体験している国際社会は「リットン報告書」の時と同じような対応を取らざるをえなくなるだろう」と記した。

実際に事態は満州事変後の「リットン調査団」の頃の状況と似てきた。

すなわち、共謀罪の構成要件を厳しくした「テロ等準備罪」について、国連人権理事会の特別報告者が安倍総理宛の書簡で懸念を表明していた問題に対して、安倍内閣は「書簡は国連または人権理事会の見解を述べたものではない」などとする答弁書を国内向けに閣議決定し、書簡についても答弁書で次のように厳しく批判した。「我が国政府から説明を受けることなく作成されたものであり、誤解に基づくと考えられる点も多い」。(以上、「TBSニュ-ス」13時57分)。

しかし、その「閣議決定」に応えるかのように早速、「国連人権高等弁務官事務所は30日、言論と表現の自由に関するデービッド・ケイ特別報告者がまとめた対日調査報告書を公表した。その中でケイ氏は、日本の報道が特定秘密保護法などで萎縮している可能性に言及、メディアの独立性に懸念を示し、特定秘密保護法の改正などを日本政府に勧告した」(「共同通信」21時30分)。

実際、前回の記事で記したように、すでに2013年に国連のピレイ・人権高等弁務官は安倍政権が強行採決した「特定秘密保護法案」について「成立を急ぐべきではない」と指摘していた。さらに、高市総務大臣の「電波停止」発言など、政権による報道への圧力の問題を調査しに来日しながら、度重なる会見の要求を高市氏に拒まれた国連の「報道の自由」特別報告者デビット・ケイ氏は、外国人記者クラブで記者会見を行い、秘密保護法やパスポート強制返納などについても安倍政権を強く批判していた。

「閣議決定」は国連特別報告者ケナタッチ氏が「共謀罪」法案に対し、18日付けの書簡で首相に対して「我が国政府から説明を受けることなく作成されたもの」と批判しているが、このような経緯から見るならば、「説明」を拒否し続けていたのは安倍内閣であることは明白であるだろう。

以前に書いたことの繰り返しになるが、五輪に向けたこれまでの努力を無駄にしないためには、「五輪憲章」に違反して開催権を取り上げられる危険性のある安倍政権に代わる次の政権を一刻も早くに打ち立てることが必要だと思える。

 

「共謀罪」法案の強行採決と東京オリンピック開催消滅の可能性関連記事

「共謀罪」法案の強行採決と東京オリンピック開催消滅の可能性(1)――1940年との類似性(加筆版)

「共謀罪」はテロの危険性を軽減せず、むしろ増大させる悪法――国連特別報告者の批判を踏まえて

(2)ベルリン・オリンピックとの「際立つ類似点」

(3)G7サミットでの安倍発言と政府の対応をめぐって 

4)安倍首相の「国連特別報道者」非難発言と日本の孤立化

「特定秘密保護法案の強行採決と日本の孤立化関連記事

「特定秘密保護法」の強行採決と日本の孤立化

「特定秘密保護法案」の強行採決と日本の孤立化Ⅱ

(4)安倍首相の「国連特別報道者」非難発言と日本の孤立化

「日本政府が、その抗議において、繰り返し多用する主張は、2020年の東京オリンピックに向けて国連越境組織犯罪防止条約を批准するためにこの法案が必要だというものでした。」(国連特別報告者「官房長官の声明に対する反論」)

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読売新聞(5月27日、電子版)は「(国連事務総長)グテレス氏は日本の国会で審議中の組織犯罪処罰法改正案(テロ準備罪法案)を巡り、国連人権理事会の特別報告者が懸念を伝える書簡を首相に送ったことについて、「必ずしも国連の総意を反映するものではない」との見解を明らかにした」とニュースのソースを明らかにせずに発表した。

このような報道を受けて安倍首相は29日の参院本会議で、国連特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏が「共謀罪」法案によるプライバシー権侵害への懸念を表明したことについて、「言動は著しくバランスを欠き、客観的であるべき専門家の振る舞いとは言い難い」と強く批判し、さらに公開書簡を発表したことを念頭に「信義則にも反する。一方的なものである以上、政府のこれまでの説明の妥当性を減ずるものでは全くない」と厳しく非難し、自身宛ての質問に対しては「わが国の取り組みを国際社会で正確に説明するためにも、しっかりと返したい」と語った。

しかし、「日刊ゲンダイ」などでもすでに詳しく報道されているように、人権理事会理事国選挙の際に日本政府は、「世界の人権保護促進への日本の参画」と題した文書を公表し、〈特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現のため、今後もしっかりと協力していく〉と明記していた。→国連人権理事会理事国選挙 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_003868.html …

それにも関わらず「共謀罪」の問題点を指摘されると「客観的であるべき専門家の振る舞いとは言い難い」と特別報告者のケナタッチ氏を強く非難したことの方が、理事国選挙の際の公約を破り「信義則にも反する」と国際社会から批判されるだろう。

実際、本日(30日)国連の報道官は、「共謀罪の構成要件を厳しくしたテロ等準備罪を新設する法案に懸念を示した国連の特別報告者」の言動を非難した日本政府の見解に対しても、「事務総長は特別報告者について、国連人権理事会に直接、報告を行う独立した専門家」であり、「彼らは国連人権理事会の組織の一部でもある」と語ったとコメントして、日本政府の解釈を否定した。

さらに、金田法相の国会発言からは「共謀罪」が人権・環境団体をも対象としていることが新たに明らかになっただけでなく、「加計学園」問題について証言した前川前文科次官に対する政権と御用新聞による誹謗中傷などからも、オリンピックを名目にした「共謀罪」法案が、テロ対策よりも政権の関係者の利権を守り、批判者を取り締まる法案であることがいっそう明確になってきた。

これまで日本国内での事実の改竄や証拠の隠蔽に成功してきたために、安倍政権は国際社会でも訳語の改竄のような二枚舌が通用すると考えているのかもしれない。

しかし、すでに2013年に国連のピレイ・人権高等弁務官は安倍政権が強行採決した「特定秘密保護法案」についても、「成立を急ぐべきではない」と語っていた。

「特定秘密保護法案」の強行採決と日本の孤立化

「特定秘密保護法」の強行採決と日本の孤立化

国連からの度重なる警告や質問を無視している安倍政権は、いずれ国際社会からの強い批判を招いて孤立化し、国際連盟から脱退してオリンピックを返上していた1940年と同じような事態になると思われる。

国連事務総長金田法相

(出典は「東京新聞政治部」のツイッター)

(3)G7サミットでの安倍発言と政府の対応をめぐって

「日本政府が、その抗議において、繰り返し多用する主張は、2020年の東京オリンピックに向けて国連越境組織犯罪防止条約を批准するためにこの法案が必要だというものでした。」(国連特別報告者「官房長官の声明に対する反論」)

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昨日の報道によれば、安倍首相はG7サミットのテロに関する議論の中で、日本政府が「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案の今国会成立を目指していることに関連し「テロの資金源である組織犯罪対策の強化が必要であり、国際組織犯罪防止条約の締結のためのわが国の取り組みに対するこれまでの各国の支持に感謝したい」と語った(「東京新聞」)。

「共同通信」が〈首相、「共謀罪」支持に謝意〉との見出しでこのニュースを伝えたために、あたかも安倍政権が強行採決した「共謀罪」法案がサミットでも評価されたかのような印象が生まれた。

しかし、階猛氏がすでにツイッターで指摘しているように「見出しと記事の本文が不整合。本文を読むと『国際組織犯罪防止条約締結の取り組み』への各国の支持に首相が感謝したとあるが、『共謀罪』支持への感謝はどこにもない」のである。

問題はサミットの前に安倍首相と日本政府が「プライバシーに関する権利の国連特別報告者」ケナタッチ氏から受け取っていた「共謀罪」法案にたいする厳しい指摘については完全に無視していることであろう。

しかし、すでに多くの報道機関によって報じられているように、ケナタッチ氏は問題点を具体的に示したうえで、日本政府からの詳しい説明と情報の提供も下記のように明快に求めていた(青い字で記す)。

人権理事会から与えられた権限のもと、私は担当事件の全てについて事実を解明する職責を有しております。つきましては、以下の諸点につき回答いただけますと幸いです。

  1. 上記の各主張の正確性に関して、追加情報および/または見解をお聞かせください。
  2. 「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」の改正法案の審議状況について情報を提供して下さい。
  3. 国際人権法の規範および基準と法案との整合性に関して情報を提供してください。
  4. 法案の審議に関して公的な意見参加の機会について、市民社会の代表者が法案を検討し意見を述べる機会があるかどうかを含め、その詳細を提供してください。」

しかもケナタッチ氏は、最近の日本における状況を踏まえて次のように結んでいた。

最後に、法案に関して既に立法過程が相当進んでいることに照らして、これは即時の公衆の注意を必要とする事項だと考えます。したがって、閣下の政府に対し、この書簡が一般に公開され、プライバシーに関する権の特別報告者のマンデートのウェブサイトに掲載されること、また私の懸念を説明し、問題となっている点を明らかにするために閣下の政府と連絡を取ってきたことを明らかにするプレスリリースを準備していますことをお知らせいたします。

 閣下の政府の回答も、上記ウェブサイトに掲載され、人権理事会の検討のために提出される報告書に掲載いたします。/ 閣下に最大の敬意を表します。」

*   *   *

こうして、「共謀罪」法案をめぐる日本政府の見解が全世界に向けて公表されることを国連特別報告者・ケナタッチ氏があらかじめ断っていたにもかかわらず、安倍政権は最近の国会で野党からの質問に対するのと同じようなやり方で、特別報告者からの丁寧な要望に対して全く回答しなかったばかりか情報も提供せずに、内政干渉であるかのごとき抗議の書簡を送りつけた。

本稿の視点から注目したいのは、その抗議文に対して国連特別報告者が、冒頭に掲げたオリンピック開催問題にも言及しながら、次のように厳しい反論を安倍政権に突きつけたことである。

日本政府は、これまでの間、実質的な反論や訂正を含むものを何一つ送付して来ることが出来ませんでした。いずれかの事実について訂正を余儀なくされるまで、私は、安倍晋三内閣総理大臣に向けて書いた書簡における、すべての単語、ピリオド、コンマに至るまで維持し続けます。

日本政府がこのような手段で行動し、これだけ拙速に深刻な欠陥のある法案を押し通すことを正当化することは絶対に出来ません

戦前の価値観の復活を目指す「日本会議」に支えられている安倍政権の閣僚たちにとっては、国連特別報告者からのこのように厳しい反論も野党からの批判と同じように無視すればよく、官僚と報道機関を握っていれば国内の反対は押さえられると感じているように思える。

たしかに、国会で3分の2以上の議席を持つ自民・公明・維新の3党が参議院でも一致すれば、この法案も強行採決すれことができるだろう。しかし、国連の特別報告者デビット・ケイ氏やケナタッチ氏の指摘や報告の内容は、安倍政権の強圧的な対応によっていっそう説得力のあるものとなり、ベルリン・オリンピックの悲劇を体験している国際社会は「リットン報告書」の時と同じような対応を取らざるをえなくなるだろう。

ヒトラー、オリンピック安倍マリオ、東京経済

(ベルリン・オリンピックの開会式でオリンピック旗に敬礼するアドルフ・ヒトラー。1936年8月1日。出典はサイト「ホロコースト百科事典」)(出典は「東洋経済.net」)

それゆえ、ジャーナリストの保坂展人・世田谷区長が提案しているように、「参議院審議の前に、ケナタッチ氏の指摘を直接聞くことは必須だろう」。

「共謀罪」法案を強行採決することは東京オリンピック開催の消滅につながると私は考えている。

 

参考資料:「東京新聞」「朝日新聞」「毎日新聞」及び「民進党広報局」作成の下記の文書

プライバシーに関する権利の国連特別報告者 ジョセフ・ケナタッチ書簡全訳

ジョセフケナタッチ書簡解説(海渡雄一弁護士)

官房長官の声明に対する反論(日本訳)

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「共謀罪」法案の強行採決と東京オリンピック開催消滅の可能性(2)――ベルリン・オリンピックとの「際立つ類似点」

(2)ベルリン・オリンピックとの「際立つ類似点」

前回の記事〈「共謀罪」法案の強行採決と東京オリンピック開催消滅の可能性(1)――1940年との類似性(加筆版)〉では、安倍首相が「共謀罪 成立なしで五輪開けない」と語ったことの問題点を考察するとともに、国際連盟が派遣したリットン調査団の報告の後で日本が国際連盟から脱退していたことについてもふれた。

*   *   *

今日の「こちら特報部」(「東京新聞」)は、ベルリン五輪(1936年)を徹底して「政治利用」し、「景気浮揚、治安の強化、再軍備」など「国威発揚」の場としたナチスドイツと、「改憲」や「共謀罪」法案でオリンピックを政治利用し、「復興を演出」している安倍政権の手法との「際立つ類似点」を見事に示している。

すなわち、「平和愛好家を自称していた」ヒトラーは「五輪の期間中だけ国内でユダヤ人排斥の看板」を取り外すなどの対策をとることで、「ユダヤ人迫害などはうそだ」と「世界に向けて宣伝」していた。

ヒトラー、オリンピック

ベルリンオリンピックの開会式でオリンピック旗に敬礼するアドルフ・ヒトラー。1936年8月1日、ドイツ。出典はサイト「ホロコースト百科事典」より)

そのために「五輪憲章は大会の政治利用を禁じている」が「その原則に触れかねない事態」がおきたのが、「昨年八月、リオ五輪の閉会式で安倍政権が人気キャラクター「マリオ」にふんして登場した一幕」だったのである。

この件については「日刊ゲンダイ」が昨年年8月22日の記事ですでに次のように批判していた。

「ちょうど80年前、ナチス政権下のドイツで開かれたベルリン大会で、ヒトラーは国威発揚のため自ら開会宣言を行った。オリンピックの政治利用の最悪のケースとして歴史に刻まれています。安倍首相もセレモニーに登場することで“東京五輪まで首相を続けるぞ”とアピールしたのです。再来年9月までの自民党総裁任期を延ばそうという動きと連動した姑息な延命PRです」(自民党事情通)/ ヒトラーといい安倍首相といい、独裁者がやることはソックリだ。」

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安倍首相の政治利用の「代表格が改憲だ」とし、首相が三日に「夏季のオリンピックが開催される二〇二〇年を日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけ」とすると語ったことを指摘した今日の「こちら特報部」はさらに、こう続けている。

「そもそも五輪招致段階のIOC総会で『汚染水は完全にコントロールされている』と事実に反するアピールをし、現在も続く被災者たちの苦悩も「復興五輪」の名目によって、打ち消そうとしている」安倍首相は、「自らの責任も問われている福島原発事故も、五輪を機に『過去』のものにしたいようだ」。

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開催地の新聞であるにもかかわらず「東京新聞」がこのような記事を載せるのは勇気のある決断であり、五輪に向けたこれまでの努力を無駄にしないためには、「五輪憲章」に違反して開催権を取り上げられる危険性のある安倍政権に代わる次の政権を一刻も早くに打ち立てることが必要だろう。

(2023/01/17、ツイートを追加)

「共謀罪」はテロの危険性を軽減せず、むしろ増大させる悪法――国連特別報告者の批判を踏まえて

前回の記事で記したように、プライバシーの権利に関するケナタッチ国連特別報告者は18日付の安倍晋三首相宛て書簡で、〈法案にある「計画」や「準備行為」の定義があいまいで、恣意(しい)的に適用される可能性があると指摘。いかなる行為が処罰の対象となるかも明記されておらず問題がある〉との強い懸念を示していた。

これに対して日本政府はジュネーブ日本政府代表部の職員を介して抗議の文書を渡し、さらに菅官房長官が記者会見で政府の見解を明らかにしたが、国連特別報告者は電子メールでの「東京新聞」の取材に答えて、日本政府の抗議の内容は本質的な反論になっておらず「プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と指摘した。

そして、日本政府が国際組織犯罪防止条約の締結に法案が必要だと述べた点については、「プライバシーを守る適当な措置を取らないまま、法案を通過させる説明にはならない」と強く批判し、次のように訴えた。

「日本政府はいったん立ち止まって熟考し、必要な保護措置を導入することで、世界に名だたる民主主義国家として行動する時だ」。

「東京新聞」の記事は国連特別報告者・ケナタッチ氏の指摘と日本政府の反論を分かり易く図示することで「共謀罪」の問題点を浮かび上がらせているので、以下に転載する。

共謀罪、東京新聞3

革命に至った帝政ロシアの研究者の視点から見ても「言論の自由」を奪う危険性の高い「共謀罪」に対する国連特別報告者の指摘は説得力がある。

なぜならば、農奴制の廃止や裁判の改革、そして言論の自由などを主張したことで捕らえられ、偽りの「死刑宣告」を受けた後でシベリアに流刑となっていたドストエフスキーが『罪と罰』においてラスコーリニコフの行動をとおして明らかにしたように、政府を批判する「言論や報道の自由」を厳しく制限することは、絶望した若者をかえってテロなどに走らせることになる危険性が高いからである。

さらに、帝政ロシアやソ連邦の歴史が示しているように、権力者に対する批判が許されない社会では公平な裁判も行われずに腐敗が進んでついには崩壊に至っていたが、同じことが「治安維持法」を公布した後の大日本帝国でも起きていた。

戦前の価値観の復活を目指す「日本会議」に牛耳られた安倍政権が続けば、日本はかつて国際連盟から脱退したように、国際連合からも脱退せざるをえなくと思える。悲劇を繰りかえさないようにするためにも、安倍政権には国連特別報告者の指摘を率直に受け止めさせて、「共謀罪」法案を廃案とさせることが必要だろう。

「共謀罪」法案の強行採決と東京オリンピック開催消滅の可能性(1)――1940年との類似性(加筆版)

オリンピックを招致する時点では、「世界有数の安全な都市」と断言していた安倍首相が「共謀罪 成立なしで五輪開けない」と語ったことを報じた「東京新聞」の記事を読んだ際には、むしろ、安倍政権が「東京五輪のテロ対策」を名目に「共謀罪」を強行採決するような場合は、「オリンピック憲章」に反する法律として国際社会に訴えれば、「開催権」が剥奪されるのではないかとの感想をツイッターに記した。

なぜならば、高市総務大臣「電波停止」発言など、政権による報道への圧力の問題を調査した国連の「報道の自由」特別報告者デビット・ケイ氏は、度重なる会見の要求を高市氏に拒まれた後で外国人記者クラブで記者会見を行い、秘密保護法やパスポート強制返納などについても安倍政権を強く批判していたからである。

しかも、ヒトラーはベルリン・オリンピックの間に戦争への準備を行っていたが、麻生副総理は憲法改正論に関してナチス政権の「手口」を学んだらどうかと発言しており、「電波停止」発言をした高市氏も1994年には『ヒトラー選挙戦略現代選挙必勝のバイブル』に推薦文を寄せていた。

衆院法務委員会で自民・公明・維新の三党により強行採決された「共謀罪」法案についても、プライバシーの権利に関するケナタッチ国連特別報告者が18日付の安倍晋三首相宛て書簡で、〈法案にある「計画」や「準備行為」の定義があいまいで、恣意(しい)的に適用される可能性があると指摘。いかなる行為が処罰の対象となるかも明記されておらず問題がある〉との強い懸念を示していたことが明らかになった。

19日の「毎日新聞」デジタル版に載ったこの記事を受けて早速、「恥ずかしい首相だ」との感想がツイッターに載ったが、国連特別報告者が「共謀罪」法案について強い懸念を示す書簡を送っていたにもかかわらず、「共謀罪」を強行採決した安倍政権は、早晩、国際社会から「開催権」が剥奪される可能性がむしろ高くなったと思われる。

「東京新聞」も20日の一面で国連特別報告者ケナタッチ氏が「共謀罪」法案に対し、18日付けの書簡で首相に対して、「法案で対象となる犯罪が幅広くテロリズムや組織犯罪と無関係のものを含んでいると指摘」していたことを大きく取り上げている。

共謀罪、東京新聞共謀罪、東京新聞2

(図版は「東京新聞政治部」、5月20日と21日のツイッター記事より)

残念ながら、日本ではいまだに国際社会から批判されている「日本会議」に支持された安倍政権が強行採決した「共謀罪」法案を賛美している新聞や、いわゆるネトウヨの影響力が強い。

しかし、「東京新聞」は今日の「こちら特報部」で、トランプ氏から名指しで「口撃」されたNYタイムズやCNNなどが、軒並みに大幅に購読者数を伸ばしていることを指摘し、アメリカでは「偽ニュース」が増えたことから、その対策として事実を正しく伝えようとすることで「権力の暴走を防ぐ良質な報道の重要性が再認識された結果だと思う」というニューヨーク在住のジャーナリストの言葉を紹介している。

「これだけの重要法案の採決にもかかわらず、NHKの生中継」がなかったことを伝えた「日刊ゲンダイ」は、「首相出席による締めくくり質疑を行わないまま、異例の採決となった理由は明白である」として、「安倍は加計学園疑惑の追及から逃げたのだ」と記している。

安倍首相の「加計学園」問題にも目をつぶって批判もできないように見える自民党と「古代復帰」を目指す維新ばかりでなく、かつては「平和の党」を自称していた公明党も、「安倍政権」が委員会で強行採決した「共謀罪」に対する国際社会の強い懸念から目を背けているように見える。

*   *   *

一方、「ウィキペディア」の記述によれば、1940年に日本の首都・東京でオリンピックを開催することは、1936年(昭和11年)の国際オリンピック委員会(IOC)で決定し、それ以降は開催に向けた準備が進められていた。しかし、翌年の7月に勃発した盧溝橋事件から「日中戦争」に拡大すると陸軍が選手選出に異論を唱えるようになった。

さらに、1938年(昭和13年)3月にエジプトのカイロで開催されたIOC総会前には、イギリスやオーストラリアだけでなく、フィンランドからも中止を求める声が上がっており、中華民国からの開催都市変更の要望も出ていたばかりでなく、アメリカ人のIOC委員は東京大会のボイコットを示唆して委員を辞任した。

このような状況を踏まえて日本政府はその年の7月に実施の中止を決定したのだが、国際社会からの厳しい批判の背景には1931年の満州事変の翌年に国際連盟が派遣したリットン調査団の報告書(対日勧告案)が提出され、ジュネーブで開かれた1933年の国際連盟特別総会で、満州における日本の利権が認められなかったとして日本首席全権の松岡洋右が会議場から立ち去り、その年に日本は脱退を表明していたことがあると思われる。

しかも、国際連盟の会議場から決然と立ち去ったことにより日本を国際社会から孤立化させた松岡洋右は、国内では称賛を浴びて「国民精神作興、昭和維新」を唱え、近衛内閣で外相に任命されるとナチスドイツとの同盟を結んで日本を悲劇に追い込むことになるのである。

東京オリンピック1940松岡洋右

(幻に終わった1940年の東京オリンピックのポスター、ドイツ総統官邸でヒトラーとの会談に臨む松岡。図版は「ウィキペディア」より)

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「特定秘密保護法案」の強行採決と日本の孤立化Ⅱ

(2017年5月22日、23日、26日、一部訂正加筆し副題を追加。6月15日、リンク先を追加)

甘利問題と「加計学園」問題、そして「共謀罪」――黒澤映画《悪い奴ほどよく眠る》再考

黒澤明、悪い奴ほど

(ポスターの図版はロシア語版「ウィキペディア」より)

甘利問題と「加計学園」問題、そして「共謀罪」――黒澤映画《悪い奴ほどよく眠る》再考

「森友学園」問題が官僚によって重要な書類が隠されたことでなかなか解明が進まない中、”総理のご意向”とする文書が流出したことでいよいよ本命といされる「加計学園」問題が前面に浮かび上がってきた。

ニュースサイト「リテラ」は、「これは国を揺るがす大問題。総理が腹心の友のため権力を使い便宜を図る行為は金が動いてなくても、収賄やあっせん収賄と同じ。加計理事長は96億円もの利益を得た。韓国前大統領と同じ身内への利益誘導、辞任に値する」と記しているがまさにそのような大問題だろう。

さらに大きな問題は「韓国前大統領と同じ身内への利益誘導」をしながら責任を取ろうともしない独裁的な安倍首相の主導によって、「共謀罪」がまたも強行採決されようとしていることである。

昨年の5月31日に東京地検が甘利前経済再生担当相と元秘書2人を「現金授受問題」で不起訴としたとの報道が「東京新聞」朝刊に載った際には、汚職事件を主題とした黒澤映画《悪い奴ほどよく眠る》を論じた箇所を拙著から引用して掲載していた。

ここではそのページと映画《野良犬》などを論じたブログ記事へのリンク先を示すことにより、映画《夢》で福島第一原子力発電所事故を予告するようなシーンを描き出すことになる黒澤監督が腐敗した政治の危険性も描き出していたことを明らかにしておく。

リンク→長編小説『白痴』の世界と黒澤映画《悪い奴ほどよく眠る》(1960)

リンク→長編小説『罪と罰』の世界と黒澤映画――《野良犬》(1949)と《天国と地獄》(1963)

 

俳優・中村敦夫氏のライフワーク、朗読劇「線量計が鳴る」全国上演のお知らせ

元・原発技術者と木枯し紋次郎――朗読劇「線量計が鳴る」を観る 

俳優・中村敦夫氏のライフワーク、朗読劇「線量計が鳴る」の全国上演が始動しています。「公式サイト・中村敦夫」より、朗読劇の内容と上演スケジュールを以下に転載します。

中村敦夫 公式サイト(上演スケジュール)

*   *   *

原発の町で生れ育ち、原発で働き、原発事故ですべてを奪われた。

これは天命か、それとも陰謀か?老人は、謎解きの旅に出る。

中村敦夫、公演2

(←画像をクリックで拡大できます)

ー内容についてー

形式  一幕四場の出演者一人による朗読劇。

元・原発技師だった老人の独白が展開されます。

二場と三場の間に十分間の休憩。

それを入れて、計二時間弱の公演です。

背景にスクリーンがあり、劇中の重要なワードなどが、 映写されます。

他の舞台装置は不要。

物語

一場 原発の町で生れ育ち、原発で働き、そして原発事故で すべてを失った主人公のパーソナル・ヒストリー(個人史)

二場 原発が作られ、日本に入ってきた事情。 原発の仕組み。福島事故の実態。

三場 主人公のチエルノブイリ視察体験。 被曝による医学上の諸問題と現実。 放射線医学界の謎。

四場 原発を動かしている本当の理由。 利権に群がる原子力村の相関図。

継承者歓迎  当初は中村敦夫が朗読しますが、多くの朗読者が、 全国各地で名乗りを上げ、自主公演が増加するこ とを期待します。   

 

朗読劇「線量計が鳴る」の主な紹介記事(2017年6月11日現在)

4月29日 「毎日新聞」 インタビュー:朗読劇で原発廃止訴え 俳優・中村敦夫さん – 毎日新聞

5月8日 「山梨日日新聞」 中村敦夫さん、原発テーマに朗読劇 via 山梨日日新聞 –

5月12日 「朝日新聞」デジタル 熊本)原発を考える 25日中村敦夫さん朗読劇:朝日新聞デジタル

6月11日「日刊ゲンダイ」 中村敦夫「避けられない問題」 – 日刊ゲンダイDIGITAL

2018年6月10日 「毎日新聞」ストーリー:俳優・中村敦夫78歳の挑戦(その1) 舞台から「原発」問う 

(2018年6月10日、改訂)

 

「世界文学会」2017年度第3回研究会(発表者:荻野文隆氏)のご案内

夏目漱石生誕150年によせて「夏目漱石と世界文学」をテーマとした2017年度第3回研究会の案内が「世界文学会」のホームページに掲載されましたので、発表者のご紹介も加えた形で転載します。

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日時:2017年6月24日(土)午後2時~4時30分

場所:中央大学駿河台記念会館 (千代田区神田駿河台3-11-5 TEL 03-3292-3111)

発表者:荻野文隆氏(東京学芸大学教授)

題目:「フランス文学と漱石」 

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発表者紹介:

著書に『他者なき思想:ハイデガー問題と日本』(共著、藤原書店、1996年)、『来るべき<民主主義> ― 反グローバリズムの政治哲学』(共著、藤原書店、2003年)、『多言語・多文化社会へのまなざし―新しい共生への視点と教育』(共著、白帝社、2008年)、『パリの街角で:音声ペンで学ぶフランス語入門』(両風堂、2015年)など。 主な訳書にエマニュエル・トッド著『世界の多様性 家族構造と近代性』藤原書店、2008年)

主要論文:「エミール・ゾラの翻訳:『巴里』(2) 杉田次郎訳から80年の空白が物語るもの」(『世界文学』、124号、2016年)、「エミール・ゾラの翻訳: 飯田旗軒と「巴里」」(『世界文学』、122号、2015年)、「エミール・ゾラと家族」(『世界文学』118号、2013年)、「精神に麻酔をかける」(『世界文学』116号、2012年)、「フランス・システムと「文明の接近」(『環』No. 32、 2008年)

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発表要旨

1900年、漱石が留学のためイギリスに到着したころのヨーロッパは、二つの相反する動きに押し流されていました。ひとつは植民地獲得を競い合う帝国主義の絶頂期であり、10数年後には第1次大戦へと突入していく状況にあったことです。そして、1849年、ヴィクトル・ユゴーが「ヨーロッパ合衆国」で提示したヴィジョンに見られるように、ヨーロッパ列強の繁栄と平和の模索の動きがあったことです。

しかしこの和解と繁栄の提案は、同時にヨーロッパがアフリカなどを植民地とし、文明をもたらすことによって実現されるとするものでした。漱石がロンドンの街中の鏡に映る自分の姿を大変みすぼらしいと感じたのは、そのユゴーの提案から半世紀を経た時代だったのです。

漱石はこの時代をどのように生きたのか、そしてそれは当時のフランス文学の歴史性とどのように係わるものだったのかを、漱石とほぼ同年代の作家であるフランスのロマン・ロラン、ドイツのハインリッヒ・マンらとの比較を通して見てみたいと思います。

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会場(中央大学駿河台記念会館)への案内図

案内図

 JR中央・総武線/御茶ノ水駅下車、徒歩3分

東京メトロ丸ノ内線/御茶ノ水駅下車、徒歩6分

東京メトロ千代田線/新御茶ノ水駅下車(B1出口)、徒歩3分

 

「改憲」の危険性と「平凡な事実」

今年は日本国憲法が施行されて七十年になりますが、戦前の価値観の回復を目指す「日本会議」に支えられた安倍首相は憲法改正を公言し、活発な活動をしています。しかし、それは「核の時代」から目を逸らした危険な言動でしょう。

「核の時代」と「改憲」の危険性

ここでは〈「改憲」の危険性と司馬遼太郎氏の「憲法」観〉と題した2013年7月19日の記事の冒頭を省いた形で再掲します。

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日露の衝突をクライマックスとした長編小説『坂の上の雲』を書く中で「近代の国家」と戦争の問題を深く考察した司馬氏は、『ロシアについて――北方の原形』という著作で次のように記していました。

「国家は、国家間のなかでたがいに無害でなければならない。また、ただのひとびとに対しても、有害であってはならない。すくなくとも国々がそのただ一つの目的にむかう以外、国家に未来はない。ひとびとはいつまでも国家神話に対してばかでいるはずがないのである」(「あとがき」)。

作家の井上ひさし氏との対談では、「法慣習とまでは言いませんが」と断りつつも、平和憲法のほうが「昔なりの日本の慣習」に「なじんでいる感じ」であると語り、さらに「日本が特殊の国なら、他の国にもそれも及ぼせばいいのではないかと思います」と司馬氏は続けていました(「日本人の器量を問う」『国家・宗教・日本人』、講談社、1996年)。

『坂の上の雲』の後で江戸時代に起きた日露の衝突を防いだ商人・高田屋嘉兵衛を主人公とした『菜の花の沖』を書き上げていた司馬氏は、この憲法が遠く江戸時代に語られた高田屋嘉兵衛の言葉にも連なっていることを知っていたのです。

ここで司馬氏が主張していることは、「一国平和主義」の幻想ではありません。『坂の上の雲』を書き終えた後で司馬氏は、「日本というこの自然地理的環境をもった国は、たとえば戦争というものをやろうとしてもできっこないのだという平凡な認識を冷静に国民常識としてひろめてゆく」ことが、「大事なように思える」と書いていたのです(「大正生れの『故老』」『歴史と視点』、1972年)。

このような見解は、近代の「国民国家」がお互いに「富国強兵」を競い合うなかで戦争を大規模化させ、ついには三〇万人以上の人々を殺害した原子爆弾が用いられたという過去の事実を歴史小説を書く中で冷静に観察したことによるのです。

ソ連のチェルノブイリでおきた原子炉事故の後でも司馬氏は、「平凡なことですが、人間というのはショックが与えられなければ、自分の思想が変わらないようにできているものです」と冷静に分析し、「この事件は大気というものは地球を漂流していて、人類は一つである、一つの大気を共有している。さらにいえばその生命は他の生物と同様、もろいものだという思想を全世界に広く与えたと思います」と語っていました(「樹木と人『十六の話』」。

私たちは「戦争」が紛争解決の手段だとする19世紀的な古く危険な歴史観から脱却し、「核の時代」では戦争が地球を滅ぼすという「平凡な事実」をきちんと認識すべき時期にきていると思われます。