高橋誠一郎 公式ホームページ

07月

自著『「罪と罰」の受容と「立憲主義」の危機――北村透谷から島崎藤村へ』の紹介文を転載

「桜美林大学図書館」の2019年度・寄贈図書に自著の紹介文が表紙の書影とともに掲載されましたので転載致します。

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「罪と罰」の受容と「立憲主義」の危機 高橋 誠一郎(著/文) - 成文社 

若きドストエフスキーは帝政ロシアの政治体制に抗して、農奴解放や言論の自由、裁判制度の改革を訴えて逮捕され、一度は死刑の判決を受けていた。大逆事件の後でこのことに言及した夏目漱石をはじめ、内田魯庵や北村透谷、そして島崎藤村はその重みをよく理解していた。

本書では「教育勅語」渙発後の北村透谷や『文学界』の同人たちと徳富蘇峰の『国民之友』との激しい論争などをとおして、権力と自由の問題に肉薄していた『罪と罰』を読み解き、この長編小説の人物体系などを深く研究して権威主義的な価値観や差別の問題を描いた『破戒』の現代的な意義に迫った。

その一方で、「天皇機関説」事件で日本の「立憲主義」が崩壊する前年の1934年に著した『罪と罰』論で「罪の意識も罰の意識も遂に彼には現れぬ」と主人公について解釈した小林秀雄の文学論の問題点を、彼の『破戒』論や『夜明け前』論を分析することで明らかにした。

さらに、徳富蘇峰の歴史観や英雄観との類似性に注目しながら小林秀雄の『我が闘争』の書評を分析することで、今も「評論の神様」と称賛されている彼の歴史認識の危険性も示唆した。本書が文学の意義を再認識するきっかけとなれば幸いである。

  高橋誠一郎(リベラルアーツ学群)

『「罪と罰」の受容と「立憲主義」の危機――北村透谷から島崎藤村へ』(目次)

はじめに 危機の時代と文学――『罪と罰』の受容と解釈の変容  

→あとがきに代えて   「明治維新」一五〇年と「立憲主義」の危機

ドストエーフスキイの会、252回例会(合評会)のご案内

「第252回例会のご案内」を「ニュースレター」(No.153)より転載します。

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252回例会のご案内

『広場』28号の合評会です。論評者の報告時間を10分程度と制限して自由討議の時間を多くとりました。記載されている以外のエッセイや書評などに関しても、会場からのご発言は自由です。多くの皆様のご参加をお待ちしています。                                        

日 時2019年7月27日(土)午後2時~5時         

場 所千駄ヶ谷区民会館(JR原宿駅下車徒歩7分)   03-3402-7854 

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掲載主要論文の論評者と司会者

川崎エッセイ:コンピューターアルゴリズムと地下室人 ―太田香子氏

五〇周年に寄せて:木下:会発足五〇周年にちなんで 福井:「感想」―会誌「研究Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」発刊の頃 高橋:「ドストエーフスキイ広場」発刊の頃 ―渡辺好明氏

清水論文:ドストエフスキイにおける癒しの人間学序説 ―近藤靖宏氏

冷牟田論文:ソーニャの愛と信仰、スヴィドリガイロフの「慈善」について ―菅原純子氏

野澤論文:残された憧憬を訪ねて ―熊谷のぶよし氏

泊野論文:ホフマンとドストエフスキー ―野澤高峯氏

赤渕論文:A.B.ルナチャルスキーにおけるドストエフスキー論 ―齋須直人氏

翻訳論文・D.L.リハチョフ:ドストエフスキーの年代記的時間 ―福井勝也氏

エッセイ、学会報告:フリートーク

司会:高橋誠一郎氏       

                              

*会員無料・一般参加者=会場費500円

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前回の「傍聴記」と「事務局便り」は、「ドストエーフスキイの会」のHP(http://www.ne.jp/asahi/dost/jds)でご確認ください。

 

2019年度 第4回連続研究会 :「歴史と世界文学」のご案内

7月20日(土)に世界文学会 第4回連続研究会 :『歴史と世界文学』が下記の要領で行われます。

開催日時:2019年7月20日(土) 15:00~ 17:45
開催場所:中央大学駿河台記念館 (千代田区神田駿河台3-11-5 TEL 03-3292-3111)

発表者と発表要旨を「世界文学会」のホームページより転載します。

懇親会や地図など詳しくはホームページをご参照下さい。

 http://sekaibungaku.org/blog/2019no3youshi

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1) 荒木 詳二「歴史小説論」
戦後74年経った今でも教科書問題や靖国問題や従軍慰安婦などの歴史問題が毎年マスコミを賑わせている。一方では現代大衆社会の歴史意識に形成に大きな影響を与えてきたのが歴史小説である。今回の発表では、日欧比較文化の観点から歴史小説の成立と発展、および歴史小説の特徴、さらに歴史と文学の関係について若干の考察を加えてみたい。ヨーロッパではナポレオン戦争後の1814年のウォルター・スコットによる最初の歴史小説「ウェイヴァリ」が書かれ、人気のジャンルとなったが、日本ではその約100年後の1913年に森鴎外によって最初の歴史小説「興津弥五右衛門の遺書」が書かれた。こうした歴史小説成立の背景には、民衆が初めて歴史に登場したナポレオン戦争や大逆事件など民衆の不安と混乱があった。歴史記述には歴史的事実と想像力が欠かせないが、歴史小説は虚構を手段として歴史的リアリティーを描き出すのである。
『美術シンボル事典』、ヒルデガルト・クレッチマー、荒木詳二 (共訳)、大修館書店、2013年。

2) 霜田 洋祐 「アレッサンドロ・マンゾーニ『婚約者』における歴史とフィクションの接続について」
イタリア近代文学を代表する文豪アレッサンドロ・マンゾーニ (1785-1873) は、「歴史の世紀」と言われる19世紀を生きた作家の中でも特に歴史にこだわった作家であった。スペインの統治下にあった17世紀のロンバルディア地方に暮らす人々の現実を描いた歴史小説『婚約者』(初版1825-27年、決定版1840-42年)は、イタリアが分裂状態にあり、外国の勢力下にある地域も多かった時代にあって、愛国的な文脈で読まれうる作品であり、実際そのような受容もされたのだが、統一運動を鼓舞するため、あるいは他の物語上の要請のために、歴史的事実が意図的に歪められるようなことはなかった。むしろマンゾーニは過去の現実を正確に描くことに心を配り、史実は史実として読者に伝えることを望んだ。本発表では、このような歴史的現実の忠実な再現を目指す作品において、フィクションと歴史とがどのように接続しているかを考えてみたい。
『歴史小説のレトリック : マンゾーニの<語り>』、霜田洋祐、京都大学学術出版会、2018年。

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世界文学会では、統一テーマのもと、12月から翌年の7月にかけて連続研究会を4回行っています。ご関心のある方は、会員外の方でもどうぞご自由にご参加ください。会員外の方には資料代として500円を承ります。