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映画・演劇評

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ニュース

映画 《福島 生きものの記録》(岩崎雅典監督作品 )と黒澤映画《生きものの記録》

6月29日(土)に 日本ペンクラブと専修大学人文ジャーナリズム学科の共催によるシンポジウム、【脱原発を考えるペンクラブの集い】part3 「動物と放射能」が専修大学で行われた。

大教室での開催だったのでどのくらいの人数が集まるかと心配したが、少し空席はあったもののほぼ満席に近い状態で、体調不良のために総合司会者が直前に変わるという変更があったものの浅田次郎会長の開会挨拶で始まり、中村敦夫・環境委員会委員長の総括で終わったシンポジウムは活気のあるものとなった。

75分という上映時間は、ドキュメンタリー映画としては長すぎるかもしれないと心配したが、杞憂にすぎず映画が始まると引き込まれてあっという間に終わったという印象であった。上映後の報告や対談でも、それぞれの視点からなされた各報告者の発表は説得力を持っており熱のこもった質疑応答がなされた。(プログラムは、文末に記す)。

私自身は黒澤映画との関連に強い関心を持って映画「福島 生きものの記録」を観た。静かな映像とナレーターの静かな口調をとおして、「警戒区域内」に残された「生き物たち」の姿を語っていたこのドキュメンタリー映画からは、自作の題名を《怒れる人間の記録》ではなく、《生きものの記録》としていた黒澤監督の先見性も伝わってきた。

たとえば、「牧場」に残って牛の世話を続ける吉沢氏は「警戒区域内の牛をすべて殺処分」するようにとの国の命令が、この地域の生き物に対する放射能の影響の「証拠隠滅」はかろうとするものと語っていたが、この地域に残された生き物に現れた症状は人間にも現れる可能性が強いのである。「人の居なくなった」この地域のツバメに現れた「斑点」は、チェルノブイリのツバメの「斑点」ときわめて似ており、近づいてくる「死の影」さえ感じられる。

上映後の対話では、この映画の試写会には新聞記者など多くのマスコミの関係者も参加したが、なぜか記事新聞んはほとんど取り上げられなかったことが明かされたが、それはビキニ沖での水爆実験で被爆した「第五福竜丸事件」の後で公開された映画《生きものの記録》の場合を彷彿とさせる。作家井上ひさし氏との対話で黒澤監督は、「あのとき、ある政治家が試写会にきて、『原水爆何怖い、そんなもの屁でもねえ』といったんですよ」と語っていたのである。

原発事故では死んだ者はいないという趣旨の発言をした自民党の高市政調会長も、事故後に自殺に追いやられた人々など無視していることを批判されて後で撤回したが、殺処分され、あるいは見捨てられて死んだ多数の牛などの映像は、人間を含む「生きものの生命」を大切にしない政策の問題点が浮かび上がってくる。

作家の司馬遼太郎氏は日露戦争をクライマックスとした長編小説『坂の上の雲』において、「命令のままに黙々と埋め草になって死んでゆく」日本兵の姿を「虫のように殺されてしまう」という激しい表現で描いていたが、3.11以降の日本は「国民の生命」が「虫のように」軽かった時代へと転落を始めているかのような恐怖さえ抱く。

岩崎監督の映画では死んでゆく生き物の姿だけではなく、人の居なくなった世界で我が物顔に振る舞うようになった猿や野生化した豚などの映像も映し出されている。ことに圧倒的な迫力を持っていたのは、「国策」によって見捨てられながらも生き残って野生化した牛の群れが疾走する映像で、ふと立ち止まってカメラを見据えた牛の鋭い視線からは怒りと殺意さえ感じられた。

そのとき、私が思い浮かべたのは、やはり「国策」によって戦場に駆り出され、復員兵として戦後の荒廃した首都に戻るが、自分の持ち物を盗まれたために犯罪に手を染めるようになった若者を描いた黒澤映画《野良犬》であった。

ドイツでは福島第一原子力発電所の事故のあとで、それまでの原発推進という「国策」が国民の意思で破棄されたが、事故の当事者である日本では多くの国民の反対にもかかわらず、「国策」は固持されている。

映画《福島 生きものの記録》の映像は、現在の日本が抱える問題だけでなく明治維新後に日本が近代化する中で抱えるようになった問題さえも映し出しているといえるだろう。

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               <プログラム>

総合司会・・・・・・・山田健太(言論表現委員会委員長)

●開会挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・・  浅田次郎(日本ペンクラブ会長)

●第1部 映画  「福島 生きものの記録」(岩崎雅典監督作品 ) 上映

3.11で被曝した生きものたち、野生動物のみならず、家畜、ペット、そして人間。いったいどうなっているのか、

被災地福島で1年かけて撮り続けた現実。

●第2部  報告 ― 動物と放射能

①「家畜たちの運命は?」・・・・・・・・・・・・・・・・  吉沢正己

②「ペットはどうなる?」・・・・ ・・ ・・・・・・・・・ 太田康介

③「野鳥の異変!」 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ 山本 裕

●第3部  対話・質疑応答

コーディネーター ・・・・・・高橋千劔破(平和委員会委員長)

上記出演者+岩崎雅典、森絵都

●総 括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中村敦夫(環境委員会委員長)