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「アベノミクス」の詐欺性(1)――「トリクルダウン」理論の破綻

「アベノミクス」の詐欺性(1)――「トリクルダウン」理論の破綻

〈安倍首相の「改憲」方針と明治初期の「廃仏毀釈」運動(5)――「欧化と国粋」のねじれの危険性〉と題した1月16日のブログ記事では、〈次回からは少し視点をかえて、1902年にはイギリスを「文明国」として「日英同盟」を結んだ日本が、なぜそれから40年後には、「米英」を「鬼畜」と罵りつつ戦争に突入したのかを考えることで、安倍政権の危険性を掘り下げることにします〉と書いていました。

しかし、「五族協和」「王道楽土」などの「美しいスローガン」を連呼して「国民」を悲惨な戦争へと導いた、かつての東条英機内閣のように「大言壮語」的なスローガンの一つである「アベノミクス」のという経済方針の詐欺的な手法が明らかになってきました。それゆえ、〈日本が、なぜそれから40年後には、「米英」を「鬼畜」と罵りつつ戦争に突入したのか〉という問題は宿題として、しばらくは「アベノミクス」の問題を考えることにします。

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今回、取り上げる「トリクルダウン(trickle-down)」理論とは「ウィキペディア」によれば、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウン)する」という経済理論で、「新自由主義の代表的な主張の一つ」であるとのことです。

「アベノミクス」という経済政策については、経済学者ではないので発言を控えていましたが、ドストエフスキーは1866年に書いた長編小説『罪と罰』で、利己的な中年の弁護士ルージンにこれに似た経済理論を語らせることで、この弁護士の詐欺師的な性格を暴露していました。

リンク→「アベノミクス」とルージンの経済理論

一方、敗戦後の一九四六年に戦前の発言について問い質されて、「僕は政治的には無智な一国民として事変に処した。黙って処した。それについては今は何の後悔もしていない」と語り、「僕は無智だから反省なぞしない。利巧な奴はたんと反省してみるがいいじゃないか」と居直っていた小林秀雄は、意外なことに重要な登場人物であるルージンについては、『罪と罰』論でほとんど言及していないのです(下線は引用者)。

このことは「僕は無智だから反省なぞしない」と啖呵を切ることで戦争犯罪の問題を「黙過」していた小林が、「道義心」の視点から「原子力エネルギー」の問題点を一度は厳しく指摘しながらも、原発の推進が「国策」となるとその危険性を「黙過」するようになったことをも説明しているでしょう。

より大きな問題は、自民党の教育政策により小林氏の著作が教科書や試験問題でも採り上げられることにより、「僕は無智だから反省なぞしない」という道徳観が広まったことで、自分の発言に責任を持たなくともよいと考える政治家が議会で多数を占めるようになったと思えることです。

そのことは国民の生命や安全に直結する昨年の「戦争法案」の審議に際しての安倍晋三氏の答弁に顕著でしたが、今年も年頭早々に「トリクルダウン」理論の推進者から驚くべき発言が出ていたようです。

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2016年1月4日 付けの「日刊ゲンダイ」(デジタル版)は、〈「トリクルダウンあり得ない」竹中氏が手のひら返しのア然〉との見出しで、これまで「トリクルダウンの旗振り役を担ってきた」元総務相の竹中平蔵・慶応大教授が、テレビ朝日系の「朝まで生テレビ!」で、〈アベノミクスの“キモ”であるトリクルダウンの効果が出ていない状況に対して、「滴り落ちてくるなんてないですよ。あり得ないですよ」と平然と言い放った〉ことを伝えているのです(朱色は引用者)。

そして記事は、経済学博士の鎌倉孝夫・埼玉大名誉教授の次のような批判を紹介しています。

「以前から指摘している通り、トリクルダウンは幻想であり、資本は儲かる方向にしか進まない。竹中氏はそれを今になって、ズバリ突いただけ。つまり、安倍政権のブレーンが、これまで国民をゴマカし続けてきたことを認めたのも同然です」

つまり、安倍政権全体が『罪と罰』で描かれていた中年の弁護士ルージンと同じような詐欺師的な性格を持っていることが次第に明らかになってきているのです。

国民が自分たちの生命や財産を守るためには、「戦争法」を廃止に追い込み、一刻も早くにこの内閣を退陣させることが必要でしょう。

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