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「小林秀雄神話」の解体――鹿島茂著『ドーダの人、小林秀雄』を読む(序)

「小林秀雄神話」の解体――鹿島茂著『ドーダの人、小林秀雄』を読む(序)


目次/ はじめに/ 1,「他人を借りて自己を語る」という方法――小林秀雄とサント・ブーヴ / 2、『地獄の季節』の誤訳とムィシキンの形象の曲解/ 3、「人生斫断家」という定義と2・26事件/  4,「小林神話」の拡がりと「核戦争」の危機

はじめに 

「1960年・70年代までは、小林神話がいまだ健在で」、どこの大学にも「小林秀雄信者」の教員がいて「信者でもない一般の高校生・予備校生に『神様の大切なお言葉を解読せよ』」と迫る出題をしていました。

 そのことを紹介したフランス文学者の鹿島茂氏が「小林神話」の解体を試みた 標記の著書から強い知的刺激を受け た私は、前著『「罪と罰」の受容と「立憲主義」の危機』(成文社、2019年)の終章では小林秀雄の『地獄の季節』訳と2・26事件との関係について分析した氏の説明を引用しました、

 『地獄の季節』と 『レ・ミゼラブル』とのかかわりを説明している箇所や小林秀雄と長谷川泰子と中原中也の三角関係についての分析も、ドストエフスキー作品の構造とも深く関わっています。それゆえ、今回はそれらのことにもふれつつ 、『ドーダの人、小林秀雄――わからなさの理由を求めて』朝日新聞出版、2016年。以下、題名は『ドーダの人』と略す)についてドストエフスキー研究者の視点から紹介しようと考えました。

 さらに、本稿を執筆中にロシア軍のウクライナ侵攻が始まると、それに乗じて維新の橋下徹氏が 日本の「核武装」についてテレビで論じると、安倍元首相もそれに応じて「改憲」が煽られるという事態が起きました。

  このような状況は関東軍による満州事変が起きると日本では「満州国」の建国を危機の打開策として歓迎するような世論が 一気に 強まり、2・26事件をへて、泥沼の日中戦争から太平洋戦争の悲劇へと突き進んだ事態を連想させます。

 それゆえ、この稿の後半ではドストエフスキー作品の深い考察もある堀田善衞の自伝的長編小説『若き日の詩人たちの肖像』にも言及することにより、小林秀雄と林房雄の戦争観と死生観を見た後で、『日本浪曼派批判序説』で保田與重郎と小林秀雄とが「インテリ層の戦争への傾斜を促進する上で、もっとも影響多かった」ことに注意を促した評論家の橋川文三による「日本の右翼テロリスト」の死生観についても紹介しました。

 そのことにより戦前の「五族協和」などと同じような美しいスローガンにより、「核武装」を説く論客の弁舌に乗って、「改憲」の必要性を主張する「#日本会議」系の議員の主張と昭和初期の論客の主張の類似性とその危険性にも迫ることができると思います。 (2022/03/02、改訂)

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