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 「ラピュタ」2――宮崎アニメの解釈と「特攻」の美化(隠された「満州国」のテーマ)

 「ラピュタ」2――宮崎アニメの解釈と「特攻」の美化(隠された「満州国」のテーマ)

 『天空の城ラピュタ』の二年前に公開された『風の谷のナウシカ』(1984)における『罪と罰』のテーマについてはすでに何度かふれてきましたが、このアニメには「満州国」のテーマも秘められていました。

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(《風の谷のナウシカ》、図版は「Facebook」より)。

 すなわち、「風の谷」を侵略した大国の皇女は自分たちに従えば「王道楽土」を約束すると語るのですが、それはかつて日本が「満州国」を建国した際に理想を謳った「五族協和」や「八紘一宇」と同じようなスローガンの一つだったのです

 雑誌『日本浪曼派』の主催者・保田與重郎も「満州国の理念」を、「フランス共和国、ソヴエート連邦以降初めての、別箇に新しい果敢な文明理論とその世界観の表現」と、「『満州国皇帝旗に捧ぐる曲』について」で讃えていました(橋川文三『日本浪曼派批判序説』講談社文芸文庫、34頁)。

日本浪曼派批判序説 (講談社文芸文庫)(書影は「アマゾン」より)

 それゆえ、このようなスローガンに惹かれて日本だけでなく、植民地だった朝鮮からも多くの人々がそこに移住しましたが、実態は理想とはかけ離れたものでした。彼らに与えられた土地は満州に住んでいた人々が安く買いたたかれて手放した土地であり、そこでは軍が深く関わっていたアヘンも横行するようになっていたのです(姜尚中、玄武岩著『興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産』 講談社学術文庫、2016年参照)。

興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)

 評論家の橋川文三が指摘したように、「満州国建国前後の、挫折・失望・頽廃(たいはい)の状況こそ、『昭和の青春像の原型』であり、この『デスパレートな心情』こそ、『深い夢を宿した強い政治』への渇望の燃料」となっていました。

 橋川は保田與重郎とともに小林秀雄が、「戦争のイデオローグとしてもっともユニークな存在で」あり、「インテリ層の戦争への傾斜を促進する上で、もっとも影響多かった」ことに注意を促していますが、「立憲主義」が崩壊する一年前に小林秀雄が原作における人物体系などには注意を払わずに行った『罪と罰』の解釈にもナチズム的な暴力主義への傾倒が秘められています(拙著、第6章参照)。

 さらに小林秀雄は真珠湾の攻撃を「空は美しく晴れ、眼の下には広々と海が輝いていた。漁船が行く、藍色の海の面に白い水脈を曵いて。さうだ、漁船の代りに魚雷が走れば、あれは雷跡だ、といふ事になるのだ。」と美しく描き出しました(小林秀雄「戦争と平和」)。 しかし、作家の堀田善衞が指摘しているようにこの真珠湾攻撃には「特殊潜航艇による特別攻撃」がともなっており、この攻撃に参加した若者たちは暗い海の藻屑となって全員が亡くなり、「軍神」として奉られていたのです。

 しかし、アニメ『天空の城ラピュタ』が放映される数日前には靖国神社や自衛隊で人間魚雷「回天」のキューピーちゃん人形が販売されていたことが話題になっていました。司馬遼太郎とも対話を行っていた元第十八震洋特攻隊隊長で作家・島尾敏雄氏の作品を読んでいたこともあり、そんな「不謹慎」なことはありえないだろうと考えていたのですが、実際に2009年12月までは販売されていたようで、その写真を見て愕然としました。

 さらに、「#あなたが作りそうなジブリ作品のタイトル」というハッシュタグには、「・回天の城ラピュタ ・指揮官の動く城 ・海自の恩返し ・人形立ちぬ ・艦これ姫の物語 ・前線の豚 ・写真の墓 ・戦艦戦記」などの軍隊系の題名が挙げられ、特殊潜航艇「回天」もその題名に取り入れられていたのです。

 一方、東大から経産省などをへて衆議院議員になった丸山穂高氏が、北方領土での言動が激しい顰蹙を買ったにもかかわらず、むしろ前科を誇るかのようにツイッターのプロフィール欄に「憲政史上初の衆院糾弾決議も!」と書きこんでいることに気づきました。

 しかも、8月31日のツイートでは竹島への攻撃を扇動したことがS 氏に批判されると、広島と長崎の悲劇について「過ちは繰返しませぬから」と言うべきは原爆を投下して非戦闘員を含めた非道なる大量虐殺を行った米軍かと。理解されていないのはどちらですかね?まさに敗戦国の末路かと。」と揶揄していました。しかし、「貴方の返信を多くのみなさん知って貰いたいので返信を公開して良いですか?」とS 氏から問いただされると直ちに自分のツイートを削除したようです。

 これらの投稿からは彼が核戦争の悲惨さについて考えたこともないだろうということが分かりますが、それは「#バルス祭り」などを提案しているツイッターの書き手にも通じているでしょう。そのことはアニメ『千と千尋の神隠し』が放映された後でこの映画の主題歌に関連して、宮崎監督の深い平和観について次のようなツイートをした際にも感じました。

 「安倍首相の復古的な歴史観を批判した宮崎駿監督の映画は民話的な構想に深い哲学的な考察を含んでおり世界中で愛されています。たとえば、ウクライナの女性歌手Nataliya Gudziyも、『千と千尋』の主題歌を通して原爆と原発事故とのかかわりついて深い説得力のある言葉で語っています。」。

ウクライナ美女が 千と千尋~ 主題歌を熱唱 Nataliya Gudziy … – YouTube

 このツイートに対しては多くのリツイートと「いいね」が寄せられましたが、そればかりでなくネトウヨと思われる人からの執拗な反論がありました。粘り強く反論すると不意にブロックされたばかりでなく、相手やその支持者たちの多くのいやがらせのツイートも完全に消されていたのです。

 そのような経緯から安倍首相が「核兵器禁止条約」の批准に反対し、原爆反対の書名集めも政治活動と見なすようになるなかで、宮崎駿監督の映画をも敵視するような若者や大人が増え始めていると感じました。

 少し大げさなようですが、亡びの呪文である「バルス」がツイッターのトレンドに入るような状況からは日本の言語文化が危機に瀕しており、情緒的な短い文章で感情的に煽ることには長けていても、自分の考えをきちんと論理的に相手に伝える能力が低下しているのではないかとさえ思えます。

 それはアニメの理解だけでなく、日本の学校における文学の教育にも深く関わっています。

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