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「集団的自衛権の閣議決定」と「憲法」の失効

「集団的自衛権の閣議決定」と「憲法」の失効

 

「集団的自衛権の閣議決定」と「憲法」の喪失

 

昨年の10月25日に「特定秘密保護法案」を閣議決定し、その後、強行採決していた安倍内閣は、昨日、「集団的自衛権」を閣議で決定しました。

「集団的自衛権」の重大な問題点についてはすでに新聞などでも詳しく報道されていますが、「同時多発テロ」を理由にアメリカのブッシュ大統領が主導して行ったアフガンやイラクとの戦争には「大義」がなかったことが明白になっており、それが中東情勢やアフガンなどの混乱と直結しているのです。  

 安倍政権は中国などの脅威を強調して国民の不安を煽ることで、「国民の生命」を守るためには「集団的自衛権」が必要なことを強調しています。しかし、今回の法案は福島第一原子力発電所の大事故をまだ解決し得ていない日本が、国際的なテロに巻き込まれる危険性を増やし、「国民の生命」をより脅かすものだといえるでしょう。                     

「国民の生命」だけでなく、近隣諸国の安全にも関わる「集団的自衛権」の問題が、国会での十分な議論や国民への説明もほとんとないままに閣議で決定された2014(平成26)年7月1日を「昭和憲法」が実質的には失効した日として、記憶せねばならないでしょう。

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昨年の11月13日に私は、〈「特定秘密保護法案」と明治八年の「新聞紙条例」(讒謗律)〉というブログ記事で次のように書きました。

「征韓論」に沸騰した時期から西南戦争までを描いた長編小説『翔ぶが如く』で司馬遼太郎氏は、「この時期、歴史はあたかも坂の上から巨岩をころがしたようにはげしく動こうとしている」と描いていました(『翔ぶが如く』、第3巻「分裂」)。

世界を震撼させた福島第一原子力発電所の大事故から「特定秘密保護法案」の提出に至る流れを見ていると、現在の日本もまさにこのような状態にあるのではないかと感じます。

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 「文明史家」とも呼べるような広い視野を有していた作家の司馬遼太郎氏は、日本が無謀な戦争へと突入することになる歴史的な経緯を、『坂の上の雲』や『翔ぶが如く』などの長編小説で描いていました。

 しかも司馬氏は、『竜馬がゆく』において幕末の「攘夷運動」を詳しく描き、その頃の「神国思想」が「国定国史教科書の史観」となったと歴史の連続性を指摘し、「その狂信的な流れは昭和になって、昭和維新を信ずる妄想グループにひきつがれ、ついに大東亜戦争をひきおこして、国を惨憺(さんたん)たる荒廃におとし入れた」と痛烈に批判していました(第2巻・「勝海舟」)。

「明治憲法」を有していた日本がなぜ、昭和初期の「別国」となったかについて司馬氏が明治を扱った長編小説で参謀本部や内務省の危険性に注意を促していたことに留意するならば、幕末の動乱を描きつつ司馬氏の視線が昭和初期の日本だけでなく、平成の日本にも向けられていたことは確かでしょう。

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昨日、「あとがきに代えて――小林秀雄と私」をブログにアップし、『黒澤明と小林秀雄――「罪と罰」をめぐる静かなる決闘』が私の手からは離れました。   

これからは積年の課題である『司馬遼太郎の視線(まなざし)』(仮題)に本格的に取り組むことで、「新聞記者としての正岡子規と漱石との友情」に注意を払いながら「憲法」の問題を分析することにより、「憲法」を持たなかったロシア帝国の滅亡を予告した秋山好古の言葉が終章で描かれている『坂の上の雲』の現代的な意義を解き明かすことにします。

   (7月4日、題名を〈「参謀本部の暴走」と「集団的自衛権の閣議決定」〉から変更し、記事を加筆)

 

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