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「特定秘密保護法」と司馬遼太郎のナショナリズム観

「特定秘密保護法」と司馬遼太郎のナショナリズム観

特定秘密保護法」は国会できちんと議論されることなく政府与党によって強行採決されましたが、このことについてNHK新会長は、「一応(国会を)通っちゃったんで、言ってもしょうがない。政府が必要だと言うのだから、様子を見るしかない。昔のようになるとは考えにくい」と会見で語りました。

ジャーナリストとしての自覚に欠けたこのような発言からは、国民の不安とナショナリズムを煽ることでこの法案の正当性を主張した政府与党の方針への追従の姿勢が強く感じられ、戦前の日本もこのような認識からずるずると戦争へと引き込まれていったのだろうと痛感しました。

今回は「自らの戦争体験から危険性を訴え、廃止を求めている」瀬戸内寂聴氏への朝日新聞のインタビュー記事を引用し、その後で司馬氏のナショナリズム観を紹介することでこの法律の危険性を示すことにします。

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「朝日新聞」(1月11日)

 年内に施行される「特定秘密保護法」に対し、作家の瀬戸内寂聴さん(91)が「若い人たちのため、残りわずかな命を反対に捧げたい」と批判の声を上げた。10日、朝日新聞のインタビューに答え、自らの戦争体験から危険性を訴え、廃止を求めている。

 表面上は普通の暮らしなのに、軍靴の音がどんどん大きくなっていったのが戦前でした。あの暗く、恐ろしい時代に戻りつつあると感じます。

 首相が集団自衛権の行使容認に意欲を見せ、自民党の改憲草案では自衛隊を「国防軍」にするとしました。日本は戦争のできる国に一途に向かっています。戦争が遠い遠い昔の話になり、いまの政治家はその怖さが身にしみていません。

 戦争に行く人の家族は、表向きかもしれませんが、みんな「うちもやっと、お国のために尽くせる」と喜んでいました。私の家は男がいなかったので、恥ずかしかったぐらいでした。それは、教育によって思い込まされていたからです。

 そのうえ、実際は負け戦だったのに、国民には「勝った」とウソが知らされ、本当の情報は隠されていました。ウソの情報をみんなが信じ、提灯(ちょうちん)行列で戦勝を祝っていたのです。

 徳島の実家にいた母と祖父は太平洋戦争で、防空壕(ごう)の中で米軍機の爆撃を受けて亡くなりました。母が祖父に覆いかぶさったような形で、母は黒こげだったそうです。実家の建物も焼けてしまいました。

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長編小説『坂の上の雲』において常に皇帝や上官の意向を気にしながら作戦を立てていたロシア軍と比較することで、自立した精神をもって「国民」と「国家」のために戦った日本の軍人を描いた司馬遼太郎氏は、その終章「雨の坂」では主人公の一人の秋山好古に、厳しい検閲が行われ言論の自由がなかったロシア帝国が滅びる可能性を予言させていました。

そして日露戦争当時のロシア帝国と比較しながら司馬氏は、「ナショナリズムは、本来、しずかに眠らせておくべきものなのである。わざわざこれに火をつけてまわるというのは、よほど高度の(あるいは高度に悪質な)政治意図から出る操作というべきで、歴史は、何度もこの手でゆさぶられると、一国一民族は潰滅してしまうという多くの例を残している(昭和初年から太平洋戦争の敗北までを考えればいい)」と指摘していたのです(『この国のかたち』第一巻、文春文庫)。

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司馬氏は明治維新後の「征韓論」が藩閥政治の腐敗から生じた国内の深刻な対立から眼をそらさせるために発生していたことを『翔ぶが如く』(文春文庫)で指摘していました。

現在の日本でも参議院選挙の時と同じように、近隣諸国との軋轢については詳しく報道される一方で、国内で発生し現在も続いている原子炉事故の重大な危険性についての情報は厳しく制限されていると思えます。

今回のNHK会長の発言だけでなく、その発言を問題ないとした菅官房長官の歴史認識からは、戦争中に大本営から発表された「情報」と同じような危険性が強く感じられます。

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