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司馬遼太郎の「治安維持法」観

司馬遼太郎の「治安維持法」観

現在、審議されている「特定秘密保護法案」の危険性について指摘した昨日のブログ記事では、司馬遼太郎氏の長編小説『翔ぶが如く』に言及しながら、「この明治8年の『新聞紙条例』(讒謗律)が、共産主義だけでなく宗教団体や自由主義などあらゆる政府批判を弾圧の対象とした昭和16年の治安維持法のさきがけとなったことは明らかだと思えます」と記しました〈「特定秘密保護法案」と明治八年の「新聞紙条例」(讒謗律)〉。

このように断定的に書いたのは、『翔ぶが如く』で『新聞紙条例』(讒謗律)を取り上げていた司馬氏が、『ひとびとの跫音』では大正14年に制定された最初の「治安維持法」について次のように厳しく規定していたからです。

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国家そのものが「投網、かすみ網、建網、大謀網のようになっていた」。

「人間が、鳥かけもののように人間に仕掛けられてとらえられるというのは、未開の闇のようなぶきみさとおかしみがある」。

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いわゆる「司馬史観」論争が起きた際には司馬氏の歴史観に対しては、「『明るい明治』と『暗い昭和』という単純な二項対立史観」であり、「大正史」を欠落させているとの厳しい批判もありました。

しかし、『ひとびとの跫音』において司馬氏は、子規の死後養子である正岡忠三郎など大正時代に青春を過ごした人々を主人公として、「言論の自由」を奪われて日中戦争から太平洋戦争へと続く苦難の時期を過ごした彼らの行動と苦悩、その原因をも淡々と描き出していたのです、

司馬氏はこの長編小説で「学校教練」にも触れていますが、治安維持法と同じ年に全国の高校や大学で軍事教練が行われるようになったことに注意を促した立花隆氏の考察は、この法律が「革命家」や民主主義者だけではなく、「軍国主義」の批判者たちの取り締まりをも企てていたことを明らかにしているでしょう(『天皇と東大――大日本帝国の生と死』下巻、文藝春秋、2006年、41~51頁)。

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日本の自然を破壊する原発の推進や核兵器の拡散にもつながると思える原発の輸出にも積極的なだけではなく、安倍政権が「徴兵制」への視野に入れて準備を進めているように見える現在、国民の眼から国家の行動を隠蔽できるような危険な「特定秘密保護法案」の廃案に向けて、司馬作品の愛読者は声を上げるべきだと思います。

 正岡子規の時代と現代(2)――「特定秘密保護法」と明治八年の「新聞紙条例」(讒謗律)

(2016年11月1日、リンク先を変更) 

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