高橋誠一郎 公式ホームページ

ドストエーフスキイの会、第235回例会(報告者:金沢友緒氏)のご案内

ドストエーフスキイの会、第235回例会(報告者:金沢友緒氏)のご案内

ドストエーフスキイの会、第235回例会のご案内を「ニュースレター」(No.136)より転載します。

*   *   *

第235回例会のご案内

下記の要領で総会と例会を開催いたします。皆様のご参加をお待ちしています。

                                       

 日 時201617日(土)午後2時~5        

場 所千駄ヶ谷区民会館(JR原宿駅下車7分) 第一会議室

報告者:金沢友緒氏

題 目: ドストエフスキーと「気球」

*会員無料・一般参加者=会場費500円

 

報告者紹介:金沢友緒 (かなざわ ともお)

東京大学大学院博士課程修了、現在日本学術振興会特別研究員(PD)。専門は18 ・19世紀のロシア文学、文化。特にロシアにおけるドイツ受容、トゥルゲーネフ、А.К.トルストイを研究している。 「А.К.トルストイと 1840 年代ロシア-『アルテミイ・セミョーノヴィチ・ベルヴェンコフスキ イ』をめぐって-」(SLAVISTIKA 28号、2012)、 «О.П.Козодавлев и И.В.Гете. Межкультурное сопоставление (コゾダヴレフとゲーテ:異文化衝突をめぐって) » ( Русская литература № 2 , 2015) 他。

*   *   *

第235回例会報告要旨

ドストエフスキーと「気球」

  文学作品は多様なジャンルの影響を受けて生まれたものであり、その中の一つが科学である。イギリス、フランス等、近代西欧先進諸国における科学技術開発の歴史の中で試みられた実験や生まれた発明に対して作家達は強い関心を示しており、ロシアの作家達もその例に漏れなかった。18世紀および19世紀を通じて近代ロシア文学は飛躍的な発展を遂げたが、そのプロセスには科学の発展もまた密接に関わりをもっていたのである。

今回の報告で注目するのはその一つである「熱気球」である。18世紀後半のフランスでモンゴルフィア兄弟がおさめた実験の成功は本国のみならず諸外国でも注目を集め、「気球 (воздушный шар)」は別名、すなわち実験者兄弟からとった「モンゴルフィア(Монгольфьер)」の名で各地に広まったのである。ロシアでも反響が大きく、フランスで実験が行われた1783年に既にペテルブルグで、また翌年にはモスクワでも同様に実験が行われた。以後、気球は飛行実験や新たな交通手段の開発の模索が繰り返される中、文学においても、伝統的な飛行のモチーフとの関わりの中で重要な役割を獲得していったのである。 本報告は18世紀から19世紀にかけての気球をめぐる科学の歴史を踏まえた上で、ドストエフスキーの作品の中では「気球」がどのような形で登場し、用いられていたかを取り上げたい。

19世紀に入って気球をめぐる技術は向上を続け、ロマン派の作家達の作品の中にしばしば登場していた。しかし写実主義への移行期には、新たな日常的交通手段としての鉄道が文学の中に登場し、大きな役割を果たすようになっていった。レフ・トルストイに繰り返し登場する『アンナ・カレーニナ』の鉄道の旅や駅の描写、ドストエフスキーの『白痴』冒頭のムィシキンとロゴージンの列車内での出会いの場面はその代表的な例であろう。無論19世紀後半にフランスで出版されたジュール・ヴェルヌの『気球に乗って』のように、「気球」を用いたファンタジー文学として西欧で大きな反響を得た作品もあったが、現実の風景としての気球飛行はさほど実用的ではないため、ロシア・リアリズム文学の中ではむしろ比喩的な表現として用いられることの方が目立っていたと思われる。

ドストエフスキーの文学の中でも数多くはないものの「気球」のモチーフは登場する。やはり「気球」を比喩的に利用したものが見られ、その中でも特に意図的な利用が明確であるのが、同時代の文壇の西欧派とスラヴ派の思想的論争の背景を踏まえて書かれた、チェルヌィシェフスキー等急進陣営に対する批判である。彼の批判に対し、他の作家もまた「気球」を踏まえて応酬したのであった。

本報告ではこの議論の他に、『罪と罰』や『賭博者』に登場する「気球」についても取り上げる。また、ロシア文学の中で「気球」のモチーフが果たしてきた役割を考慮し、例えば19世紀初めから同時代の19世紀半ばにいたる作家達、В.Ф. オドエフスキー、ブルガーリン、ゲルツェン等の作品についても比較の対象として取り上げながら、ドストエフスキーの「気球」をめぐる視点について紹介したい。

気球についての言及は、ドストエフスキーを含め、近代ロシアの作家達が科学技術の発展全般についてどのような関心をもち、また創作上、どのように利用しようとしていたかを明らかにする手がかりを提供してくれるであろう。

« »

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>