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安倍首相の「改憲」方針と明治初期の「廃仏毀釈」運動(5)――美しいスローガンと現実との乖離

安倍首相の「改憲」方針と明治初期の「廃仏毀釈」運動(5)――美しいスローガンと現実との乖離

isbn978-4-903174-33-4_xl  装画:田主 誠/版画作品:『雲』

 

安倍首相の「改憲」方針と明治初期の「廃仏毀釈」運動(5)――美しいスローガンと現実との乖離

このブログの読者のなかには、ロシア文学や比較文学の研究者である私が、政治や神道の問題にまで踏み込むことに眉をひそめる方もおられるかもしれません。

しかし、歴史や文学作品の分析をとおして、「日露の近代化」を考察してきた私からみると、現在起きている多くの事態は、欧米列強が「文明開化」の名のもとに「開国」を強要した時期ときわめて似た危険な様相を示していると思われるのです。

たとえば、同時多発テロへの「報復の権利」を主張したブッシュ政権がアフガン戦争を始めた前後に開かれたある学会で、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力の「タリバン」がバーミヤン石仏を破壊したことを理由にその戦争を正当化する研究者がいたことに驚いたことがあります。

しかし、国宝クラスの重要な仏教寺院や仏像が明治初期の「廃仏毀釈」運動で破壊されていたことに注意を促した記事では、「仏教を邪教として否定し、先祖の建立した馬籠の永昌寺本堂に放火しかけて取り押さえられ」、「狂人として」座敷牢に幽閉された島崎藤村の父・正樹が、単なる「狂人」ではなく、「苦境にあえぐ村びと」を救おうと骨を折っていた真面目な人物であったことを指摘していました。

かつては長州藩の過激な「攘夷派テロリスト」であった高杉晋作や伊藤博文たちが、品川の海を見おろせる御殿山に幕府の経費で建設され、九分どおり完成していた英国公使館の焼討ちを行ったこともよく知られていますが、他国の文化や政治を武力によって強引に変え ようとするグローバリゼーション(欧化)の圧力は、かえって、それに対する強い反撥を呼びナショナリズム(国粋)を高揚させるのです。

強いグローバリゼーション(欧化)の圧力に押されて、アメリカの政策に追従している安倍政権が抱えているのも、このようなナショナリズム(国粋)の問題なのです。

*   *   *

前回の記事で指摘した神社本庁や日本会議の主張する「改憲」の署名集めのための次のような記述には、私も全面的に賛成します。

〈憲法の良い所は守り…中略…、美しい国土を守り、家族が心豊かに生活できる社会をつくりましょう。誇りある日本と子供たちの未来のために…〉

ただ、〈美しい国土を守り、家族が心豊かに生活できる社会〉を作るためならば、「神道政治連盟」がまずしなければならないのは、「公約」を反故にした安倍政権の打倒を強く国民に訴えかけることでしょう。

なぜならば、放射能で祖国の大地や河川、そして海を汚染した「福島第一原子力発電所の大事故の後でも、安倍政権はそのことをきちんと反省せずに、原発の再開だけでなく海外への輸出を試み、さらに日本の農業を疲弊させ、日本の大地を劣化させる可能性の高いTPPの交渉を国民に秘密裏に行い締結していたからです。

「神道政治連盟」が〈〈誇りある日本と子供たちの未来のため〉と謳うならば、イラク戦争を主導したアーミテージ副長官などの意向に追随して、七〇年間、戦争で他国の人間を殺さなかったというも日本の独自性を投げ捨てようとしている安倍政権をもっとも強く批判すべきだと思えるのです。

*   *   *

つまり、欧米列強の圧倒的な軍事力に屈して「文明開化」に踏み切ったために、当初から「欧化と国粋」の問題を抱えていた新政府の「ねじれ」が噴出したのが、「国家神道」というイデオロギーによって政治が動かされていた昭和初期の時代であり、岸信介氏を深く尊敬する安倍晋三氏が目指している「改憲」の危険性もそこにあるのです。

次回からは少し視点をかえて、1902年にはイギリスを「文明国」として「日英同盟」を結んだ日本が、なぜそれから40年後には、「米英」を「鬼畜」と罵りつつ戦争に突入したのかを考えることで、安倍政権の危険性を掘り下げることにします。

(2017年1月4日、副題を変更)

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