アメリカの圧力によって「開国」を迫られた幕府に対して、「むしろ旗」を掲げて「尊王攘夷」というイデオロギーを叫んでいた幕末の人々を美しく描いた大河ドラマ《龍馬伝》(2010)が、選挙期間中に再放送されたことの問題については、2013年7月14日に記しました。
リンク→大河ドラマ《龍馬伝》の再放送とナショナリズムの危険性
坂本龍馬を主人公としつつもこの大河ドラマでは、岩崎弥太郎を「語り手」としたために、司馬遼太郎氏が『竜馬がゆく』で描いていた岩崎と土佐藩の上士で新政府の高官となった後藤象二郎との癒着などの問題は描かれていなかったのです。
さらに、政商・岩崎弥太郎は、明治7年の台湾出兵や明治10年の西南戦争などでは利益をあげ、巨万の財を築くことになるのです。
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政府が事実上の禁輸政策だった「武器輸出三原則」の見直し策として、国際紛争で中立的な立場を取る国際機関への防衛装備品の輸出を検討しているとの報道がなされたのは、2014年2月11日のことでした。
それ以降、矢継ぎ早に「武器の輸出」に向けた整備が行われてきました。「東京新聞」の記事によって簡単に時系列に沿って整理しておきます。
4月1日の夕刊:政府が閣議で「武器や関連技術の海外提供を原則禁止してきた武器輸出三原則を四十七年ぶりに全面的に見直し、輸出容認に転じる新たな三原則を決定した」。
6月12日:「政府が防衛装備移転三原則で武器輸出を原則認めたことを受け」て、武器の国際展示会に13社が参加した。
12月17日:「防衛省が、武器を輸出する日本企業向けの資金援助制度の創設を検討」
「国の資金で設立した特殊法人などを通して、低利で融資できるようにする。また輸出した武器を相手国が使いこなせるよう訓練や修繕・管理を支援する制度なども整える。武器輸出を原則容認する防衛装備移転三原則の決定を受け、国としての輸出促進策を整備する」。
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このような流れの危険性について翌日の記事は〈武器輸出に支援金…安倍政権が「戦争できる日本」へ本格始動 〉の見出しで、埼玉大名誉教授の鎌倉孝夫氏の「日本は『死の商人』になってしまいます」との強い危惧を紹介していました。
「アベノミクスの成長戦略には兵器の輸出がしっかり組み込まれているのです。今後は途上国へのODAも自衛隊が使うことになるでしょう。国民の税金で殺人兵器の開発を活発化させても国民の生活にプラスにならない。それどころか財政をさらに逼迫させます。忘れてならないのは兵器を売ることで日本が世界に戦争の火だねをばらまいてしまうこと。ところが三菱重工などの労組は武器輸出に反対するどころか、会社に協力しているありさまです。このままでは安倍首相によって、日本は戦前のような、戦争ができる国に作り変えられてしまいます」。
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年が明けて今年の1月14日には、「膨らむ防衛予算 中期防の『枠』突破ペース」との見出しで、防衛予算がいかに増大したかが詳しく示されていました。
「中谷元・防衛相は十三日、二〇一五年度予算編成で防衛費が前年度比2・0%増の四兆九千八百一億円と、過去最大になることを明らかにした。一四年度補正予算案の防衛費(二千百十億円)と合計すると五兆一千九百十一億円となり、一五年度予算の概算要求額(五兆五百四十五億円)を上回る計算。政府の中期防衛力整備計画(中期防)を超えるペースで、防衛費が歯止めなく膨張している実態が鮮明になった。政府は十四日、一五年度予算案を閣議決定する」。
さらに、「そもそもこの金額は、補正予算を含めていない。防衛省によると中期防の枠は当初予算を合計するだけで補正予算は原則として考慮しないという。中期防は米軍普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)移設関連費用をはじめとした米軍再編関係の経費も除いており、実際の防衛費を反映していない」ことを指摘した記事は、法政大の小黒一正准教授(公共経済学)の次のような言葉で結んでいます。
「政府の財政事情が厳しい中で、防衛費を増額し続けることには限界がある。政府全体で予算の活用法を再検証しなければ、効果のはっきりしない防衛費の膨張が続くことになる」。
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本日付の記事も「暮らし抑え 防衛重視 安倍政権 予算案決定」」との大見出しで、防衛費が増大する一方で政権の基地政策に反対する翁長(おなが)知事が当選した沖縄に対する振興予算は前年度から百六十二億円も減らされ、また消費税値上げの理由とされていた「社会保障」への予算配分も減らされていることを指摘しています。
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このように見てくるとき、政商・岩崎弥太郎を語り手としたNHKの大河ドラマ《龍馬伝》が、どのような役割を担わされていたかは明白だと思われます。
今年のNHKの大河ドラマ《花燃ゆ》が始まりましたが、安倍首相の郷土の英雄・吉田松陰の末妹で、松陰の弟子・久坂玄瑞の妻となる杉文を主役としたこの大河ドラマでは何が描かれるのかも注視しなければならないでしょう。
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