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「十字軍」の歴史とBBCの報道姿勢

「十字軍」の歴史とBBCの報道姿勢

 

30日の夜9時現在もまだ、人質になっている後藤健二さんとヨルダン人のモアズ・カサスベ中尉の解放は行われていません。なんとか、交渉が成立して無事に戻られる事を願っています。

このような中、25日のNHK・日曜討論での発言に続いて安倍首相は、「読売新聞」(デジタル版)によれば、29日の衆院予算委員会でも民主党議員の質問に対して「領域国の受け入れ同意があれば、自衛隊の持てる能力を生かし、救出に対して対応できるようにすることは国の責任だ」と答弁していました。

「人質の生命」が問題となっているこの時期に、「武力」があればこのような事態を解決できるとして自衛隊の積極的な海外での活用を促すことは、「人質」の救出に真剣に取り組んでいる交渉にも影響を与える危険な発言だと思えます。

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このような発言は「十字軍」の歴史についてのきちんとした認識の欠如とも結びついていると思えます。かつてイギリスに研究で滞在していた際に「リチャード獅子心王はならず者だった」というBBCの放送を見て強い感銘を受けたことがありました。

イスラム教が支配地域の宗教については寛容であったことは知られていますが、一九九四年にイギリスで見たBBCの番組は、これまで十字軍の英雄とされてきた「リチャード獅子心王がならず者であった」ことを明らかにしていたのです。さらに、この番組は、「正義の戦争」とされてきた十字軍遠征が、実際には利権を確保するための嘘と略奪と欺瞞に満ちた戦争であり、それがジハードと呼ばれるイスラム教徒の抵抗を生み出したことをも具体的に説明していました。

かつて自国の軍隊が行った非道な行為を冷静に客観的に検証しようとするBBCのこの番組を見た際には、日本のNHKとの報道姿勢や「公共」意識の違いに驚かされました。

それゆえ、このことにふれた2004年の記事で私は、「十字軍遠征に加わらなかった日本は、イスラム教徒とキリスト教徒との仲介者たる地位を保持するためにも、キリスト教原理主義を基盤とするブッシュ政権によって要請された自衛隊の派遣を取りやめて、一刻も早くにイラクからの撤退を決断するべきであろう」と結んでいました。

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しかし、安倍政権の下で政権の言うなりになっている籾井会長や「憎悪表現」を多用している作家の百田氏などが重用されることにより、現在の日本の「公共放送」NHKからは、世界的な視野を持つ「歴史認識」が急速に失われているように感じられます。

さらに問題は、兵器や原発の輸出にも舵を切った安倍政権がこのようなNHKを利用することで戦争への気概を国民に植え付けようとし、「自衛隊」の海外派遣にその頃よりもはるかに前のめりになっていることです。

「五族協和」や「王道楽土」などの「美しいスローガン」のもとに建国された「満州国」に渡った「開拓民」が敗戦時に被った被害についてはすでに触れましたが、大企業や目先の利益を重視したこのような政策では、海外に派兵される「自衛隊員」ばかりでなく、日本の国民も再び未曾有の悲劇に巻き込まれる危険性が高いと思われます。

それゆえ、「核の時代」における「新しい自衛隊」のあり方を考察することで、「『永遠の0(ゼロ)』を超えて」のシリーズを終えるようにしたいと思います。

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