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「映画《醜聞(スキャンダル)》から映画《白痴》へ」を「映画・演劇評」に掲載

「映画《醜聞(スキャンダル)》から映画《白痴》へ」を「映画・演劇評」に掲載

 

黒澤明監督の映画《白痴》は、観客の入りを重視した経営陣から「暗いし、長い。大幅カットせよ」と命じられてほぼ半分の分量に短縮されたために、字幕で筋の説明をしなければならないなど異例の形での上映となりました。

それだけの長さを有していたオリジナル版の映画《白痴》でも、複雑な人間関係や深い思想をもつ多くの人物が登場する長編小説『白痴』の全体の流れを描き切るのは難しく、重要な役割を果たしているイッポリートについてのエピソードは映画《白痴》ではまったく描かれてはいません。

しかし、自分の余命がほとんどないことを知って、「死刑の宣告」を受けたように苦しむ定年退職前の市民課の課長・渡辺の苦悩と、新しい生きがいを見つけた喜びをモノクロのトーンでしっくりと描いた映画《生きる》は、イッポリートが望みながら死期を告げられたことで断念してしまった「他者を変え、そして生かす思想」の問題が描かれていた可能性があります。

リンク→映画《白痴》から映画《生きる》へ

映画《白痴》では長編小説の流れにおいてきわめて重要な役を担っているムィシキンの「恩人」パヴリーシチェフやその息子と称してムィシキンが受け取った遺産の一部を受け取る権利があると主張する若者をめぐるスキャンダルも全く描かれていません。

しかし、スキャンダルラスな新聞記事の背後に弁護士の資格を取ったレーベジェフが深く関わっていたことに注目するとき、映画《白痴》の前年に公開された映画《醜聞》(脚本・黒澤明、菊島隆三)と長編小説『白痴』との関わりが浮かび上がってくると思えます。

なぜならば、映画《醜聞》、映画《白痴》、映画《生きる》の三本は、三部作とも言えるほどに深い関係を有しているからです。

「戦時中、李香蘭として日本の男性にひかれる中国人女性を熱演し」、「結果として、日本の戦争に協力することになった」山口淑子氏は、戦後は「ベトナムや中東の戦場にたびたび赴き、争いに翻弄される人々に寄り添い続け」て、平和活動をすることなります(NHK、「クローズアップ現代」)。

これらのことに注意を払うならば、映画《醜聞》では三船敏郎と共演した彼女が語った「贖罪」という言葉は重く、映画《白痴》の亀田(ムィシキン)像を考える上でも重要だと思いますので、「映画・演劇評」のページに映画《醜聞》について考察した記述を再掲しておきます。

リンク→映画《醜聞(スキャンダル)》から映画《白痴》へ

 

映像資料:

NHK:BSプレミアム、「特集 世界・わが心の旅」、「李香蘭 遙(はる)かなる旅路~中国、ロシア」、2014年9月24日(水)放送。

NHK「クローズアップ現代」、「李香蘭・激動を生きて」、2014年10月21日(火)放送。

参考文献:山口淑子『「李香蘭」を生きて 私の履歴書』日本経済新聞出版社、2004年。

 

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