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《父と暮らせば》

特集「映画は世界に警鐘を鳴らし続ける」と映画《生きものの記録》

黒澤明研究会の会誌には、映画《夢》や《生きものの記録》の考察が掲載されているばかりでなく、広島の被曝をテーマにした黒木和雄監督の《父と暮らせば》や「第五福竜丸」の被爆後に撮られた本多猪四郎監督の映画《ゴジラ》や新藤兼人監督の映画《第五福竜丸》などについての優れた考察が掲載されている。

この会誌をなかなか目にする機会がないと思われるので、いずれ筆者の了解を得た後で紹介していきたいと考えているが、ここでは「映画は世界に警鐘を鳴らし続ける」という日本映画専門チャンネルの2012年の映画特集の前に行われた仙台出身の岩井俊二監督と鈴木敏夫プロデューサーとの対談記事を紹介しておきたい(注1)。

福島第一原子力発電所の大事故の後で、一気に深まったように見えた黒澤明監督の映画《夢》などへの関心は、当然放映すると思われた「公共放送」のNHKが取り上げなかったこともあり、広まることなく現在に至っているように見えるが、2012年の初めにこのような好企画で特集が組まれていたのを知ったのは新鮮な驚きであった。

スタジオジブリの鈴木敏夫氏については、これまで私の中では敏腕なプロデューサーというイメージが強かったのだが、この対談記事を読んだ後ではイメージが一変し、宮崎監督が全幅の信頼を寄せるのも当然だと思うようになった。

DVDボックスのような形でこの好企画で放映された映画を購入することができれば素晴らしいと思えるので、ここでは《生きものの記録》について語られている箇所を中心にこの対談記事を紹介する(テキスト・構成・撮影:CINRA編集部、2011/12/30)。

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岩井:日本映画専門チャンネルで「映画は世界に警鐘を鳴らし続ける」という特集を組むことになりました。今回は黒澤明監督の映画『生きものの記録』などさまざまな作品を放映します。今回の作品ラインナップはいかがでしょうか?

鈴木:放映される作品の中で一番印象に残ったのは、『生きものの記録』ですね。震災後に改めて観ると、以前にくらべて「受け取る印象がこうも違うのか」と思いましたし、すごくリアリティがあった。黒澤っていう人は面白いなと、つくづく思いましたね。

岩井:確か『七人の侍』の翌年に製作され、脚本陣も同じチームで自信を持って作ったそうですが、お客さんは全然入らなかったそうですよ。

鈴木:たぶんそうでしょうね、三船敏郎は良かったけれど(笑)。メークアップも撮影も漫画っぽくしてあったりするけれど、今観ると言いたいこともはっきりしているからすごくリアリティがあって。多くの人に、今観てほしい作品です。

岩井:『日本沈没』もそうで、3.11以降に観ると後半部分には「日本はこれからどうなるのか」というテーマが切実に描かれていると思ったし、思想的にも哲学的にも考えさせられる内容ですよね。いわゆるパニック映画とはちょっと違うテイストで。しかも「御用学者」なんて言葉も登場しているし、真実をぼかして報道するメディアに対する批判もある。(中略)今回放送されるラインナップは、震災前に観るとピンとこなかった作品もありますよね。『生きものの記録』なんて、出てくるセリフの単語のひとつひとつが、震災後に耳にする言葉だったりしますし。

鈴木:黒澤監督は、関東大震災を目の当たりにしているそうなんですね。たくさんの瓦礫と人の死が自分の記憶の底に残った、と著書に書いていて(注2)、そういう意味でも戦争や核の問題に対して敏感だったんでしょう。昔観たときは、『生きものの記録』はむしろ「喜劇映画かよ」っていう印象でしたが、震災を経ることによって、黒澤監督が作品に込めた考えが、やっと伝わってきたような気がしています。

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引用者注                                                                   1,「日本本映画専門チャンネル」で2012年1月5日(木)から2月23(木)毎週木曜日23:00から放送                           1月放送作品:『生きものの記録』/『日本沈没』/『風が吹くとき』/『ヒバクシャ HIBAKUSHA 世界の終わりに』/
『特別番組「岩井俊二×鈴木敏夫 特別対談(仮)」』
2月放送作品:『夢』/『空飛ぶゆうれい船』/『六ヶ所村ラプソディー』/『原子力戦争 Lost Love』/
『特別番組「岩井俊二×坂本龍一 特別対談(仮)」』

2,黒澤明『蝦蟇の油――自伝のようなもの』岩波書店、1990年。